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崑崙世界:物語:紅修への同行依頼

参照:twitter企画崑崙世界

あけましておめでとうございます。新年の挨拶もそこそこに崑崙世界の更新です。
カミナとの会合その後の小説。
紅修視点三人称。

ブログカテゴリに「小説」を追加しました。 挿絵のために「イラスト」カテゴリーもつけるか悩む。

登場人物

紅修はいつもの通り行きつけの定食屋で昼食を取っていた。桃華も横にいるが今日は腹が空いていないらしい。水だけちびちびと飲んでいる。木を削って作った器を危なっかしく持っているので、底を支えろと言っていると、見知った顔が現れた。よく酒場で飲む相手、シャオイェだ。知らない天人女を連れている。
その女は紅修の視線に気づくとにこりと笑って会釈をしてみせた。最初はシャオイェの女か、自慢かよとも思ったが、どうやら違うようで、紅修に用事があるらしい。シャオイェはいつものように桃華の頭を嬉しそうにひと撫ですると、女を席に誘導し、注文をする。女はたよりなさそうな動きでやんわりと席に座り、説明をしてきた。
女はカミナと名乗り、シャオイェの依頼人で、人を探しているらしい。行き先がヴァルナなので、出身である紅修に同行願いたいということだった。
報酬も予定期間も問題ないし、ちょうど今は依頼がない。紅修には断る理由もなさそうだった。

「話は分かった。珍しいヤツだろうからすぐ見つかるだろうし、受けること自体は構わねぇ」
「なんかひっかかる言い方するね?」

そう、紅修が依頼を受ける事は問題ない。だが、依頼人であるカミナが同行することに問題があった。
一般的な修羅族なら何も考えずにただ請けるだけだろうが、カミナがヴァルナに行くことでどういうことになるか、紅修には予想できた。

「法術使いなんて、人族のそいつですら軽く目立つんだ。天人なんざ行ったら晒しモンだぞ」
「……昔の広霊鎮に修羅族が現れるようなものかしら」

たしかに人探しどころではなくなりそうだとカミナがごちる。
広霊鎮がどんなところかは紅修にはわからないが、多分そんなもんなんだろうと適当に答えた。
人族はそれなりにいる。鏡童は人族ほどではないとはいえ、ヴァルナに限らずどこにでもいる。だが、ヴァルナで見る天人というのは要職についている者ばかりでかなり少ないし、彼らもヴァルナでの生活は厳しそうにしている。ふらっと行くカミナがそれ以上に苦労するのは目に見えた。
とはいっても、唯一探し人の顔を知っているカミナが同行しないということは無いだろうし、そこは諦めてもらうしかないだろう。そう考えていると、シャオイェが聞いたことのない単語をつぶやいた。

変化丸が今売ってたらよかったんだけど」
「そうかその手が。……え、売ってないの?」
「変化丸?」

名前からして変化する道具のようだが、生兵法は大怪我のもと、であったか。思い込みで話さず、不明な点は早いうちに帳尻合わせをしておくに限る。なんだそれはという意味を込めてその道具の名前を繰り返す。

「一時的に他の種族に変化できる薬だよ。鏡童はなぜだかないけど」

一時期流行ってたみたいだよ、と続けるシャオイェに、侮りや皮肉の色は見られない。長陽で何かを聞くと知らないのかと馬鹿にしてくる輩も結構いるし、足元を見てくるヤツもいる。紅修は気楽に問えるシャオイェにそれなりの好感を持っていた。
同時に、身近にその変化丸があった場合を考える。ヴァルナにそんなものがあれば、盗みやひったくりが横行しそうだ。

「そんなもん、悪さし放題じゃねえ?」
「うん。だから規制がかかった。今手に入れるためには役所の審査通らないとダメなんだよ」

あぁ、それで"今は売ってない"という言葉につながるわけか。なるほどそれは面倒くさい。とはいえ、カミナの言い方だと、変化丸はおそらく広霊鎮にもあるのだろう。

「広霊鎮でどうにかできねぇのか?」
「あるにはあるけど、あっちはあっちで流通が無いのよ。手間と時間がかかりすぎるわ」
「広霊鎮の天人は自分の種族至上主義みたいなところあるからね。他の種族になるなんて考えるヤツは奇特で需要がない」

へぇ。こいつこんなことも知ってンのか。

自分と同じ接近職だからうっかり忘れそうになるが、シャオイェの職業は剣客だ。法術も十二分に扱える。法術を扱うには、ゴギョウだとか、なんだとか、とにかく難しいことを覚えなければならないから頭の良さは必須である。紅修も馬鹿ではないが、あくまでそれはヴァルナの修羅というくくりの中の話であって、本職には敵わない。長陽のことばかりでなく、広霊鎮のことにまで造詣が深いシャオイェに感心した。
しかし広霊鎮の天人というのは頭が硬いヤツばかりのようだ。悪用するかしないかはおいといて、紅修が他の種族に変化できるのならば一度くらいはなってみたいと思う。たしかに筋力が衰えるのは手痛いので、ずっと戻れないようでは困るが、修羅族では扱いにくい法術はどんなものなのか興味があるし、頭の回転が良くなって理解力が上がったりもするのだろうか。
まぁいくら道具があっても手に入らないのでは意味がない。だがカミナは諦めなかったようだ。

「……役所に行ったら手に入るかもしれないのね?」

どんな審査があるのかまでは役所に行かなければわからないし、変化丸が手に入れば今回の任務が楽になることは確実だ。そういって地図を取り出し、役所の位置を確認しはじめた。

「だめもとだけど、行ってみようか」

***

「この内容ならご購入頂けますよ」

書かれた書類をざっと見た役員が告げた。どうやら変化丸は手に入るようだ。

「わりと普通に買えるようね」
黄帝剣派(ビックネーム)って凄い……」

少し前からシャオイェは耳慣れない言葉を使う。召喚者ということを自覚したと言っていたので、紅修の知らない世界の言葉なのだろう。
使っている言葉はともかくとして、カミナの耳飾りを見ながら唖然としているシャオイェを見る限り、一介の侠士でしかない紅修たちには到底手が届きにくい代物のようだ。

「ただ……人族と効果が短期間のものは今お出しできる状況ではありませんで。すぐに出せるのは、修羅族と天人の長期のものだけなのです」

審査を合格した時点で役員から説明があった。それによると、変化丸は自身の体を変化させるもので、力加減や法力量が変化するため、通常活動するには訓練が必要らしい。
天人変化丸は必要ないので修羅族を選ぶしかないのだが、カミナは自分の種族から一番遠いため、慣れる時間がかなり必要になるはずだ。

「それと、長期変化丸の値段はこちらです」

役員がぺらりと値段表らしきものを見せる。紅修は文盲だが数字はなんとか分かる。いち、じゅう、と桁を数えはじめようとしたところ、ひゃっと両脇から声があがったので、相当な金額が必要なようだ。
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「……ポンと出せるものではないわね……」
「どうする? 諦める?」

手に入らないものはどうしようもない。ようやく桁を数え終わったが、流石にこの金額は紅修にも出せないし、見返りもないのに出せるものでもない。

「せめて半分ならまだどうにかなったかもな。それに、無くても意外とイケるかもしれねぇ」

カミナの諦めを促すためにも、不可能なことを零してみる。それをきっかけにしたのか、シャオイェが腕を組みながら呟いた。

「保証金制度って使えないのかなぁ」
「保証金?」
「んー、この場合は金額の一部……それこそ半額くらいかな。それを役所に払って、変化丸を預かるんだよ。ヴァルナで使わずに済んだなら変化丸を渡してお金を返してもらう。もし使っちゃったら、残り全部の金額を払う」

仮に頼むとしたら、多少の手数料は払うべきだろうけどね、とシャオイェが言い切らないうちにカミナはばっと顔を上げた。手を叩いて納得すると、今シャオイェが説明した内容を役員に交渉し始めたようだ。
ようだ、というのは、使っている言葉が難解で、紅修には半分程度しか理解ができないからだ。黄帝剣派の信用と自分の姿勢、役所の利点を事細かに説明しているのだと思う。
最終的にカミナの交渉は上手くいったようで、役所は時間をかけて手続きをさせてくれというようなことを言ってきた。
紅修は役に立てることがないため、少し離れた待合用の椅子で桃華と共に腰掛けた。座った拍子にギイッと厳しそうな音が漏れる。長陽城の椅子は強めに腰掛けたら壊れてしまいそうな脆い椅子ばかりで困る。
できることはないので帰ってもよかったのだが、特に急いで帰る用事があるわけでもないし、字の読めない紅修は手紙で連絡が取れない以上、ついて回って結果をきちんと聞いたほうがあとの面倒が少なくて済むことを経験で知っていた。

「こういったら悪いんだけど……修羅族の彼、頭は悪くないのね」

聞こえてきた内容に自然と意識が向かう。修羅族は他の種族より耳がいい。今二人は待たされているようだ。聞こえないと思って話しているのだろう、小声でカミナがシャオイェに話しかけている。視線に気づかれないよう様子を伺う。

「変化丸の特性を聞いて、それによってどういう結果になるかをすぐに連想できたし、長陽がだめなら広霊鎮、と機転も利く。修羅族はみんな乱暴者で話を聞かないと思ってたから、はじめて彼を見た時は不安だったのよ」
「子供一人養えるほど長陽城でやっていけるヤツだよ? 知識不足は否めないけど、それを補う実力は確実にあるよ。でなきゃ同行提案なんてしない」
「そこまで考えて提言してくれたのね」

続けて聞こえてきた会話に気持ちが落ち着いていくのが分かる。
紅修はシャオイェに悪い気を持っていなかったが、それはシャオイェからもそうだったようだ。シャオイェとの関係はことさら長いものではないが、自分との間にそれなりの絆のようなものを感じて少し気分が上向くのを覚えた。

「そうそう、もし変化丸を使ってしまったら、自分と一緒に人力仲介の依頼を受ければいいよ。医者がいると随分と楽になるから助かるし」
「……わたし、シャオイェに依頼してよかったわ」

おっ、いい雰囲気じゃね?

天人は彼らが自負するとおり、優雅で美形が多い種族だ。カミナもそれに違わず、10人に聞けば7・8人は美人だと判断するような顔をしている。そんな相手からこのように相好を崩されれば、恋に落ちても何ら不思議ではないだろう。しかも依頼という形ではあれ、頼られている相手だ。己が普段一人で活動している侠士ならば尚更だ。
このまま展開が進めば、以前シャオイェから桃華の出会いを聞き出されて散々からかわれたお返しができそうだ。紅修はさらに聞こえてくる会話に集中する。照れたシャオイェが"期待に答えて見せる"と言おうものならしめたものだ。

「ちょっと、感謝するのは早いんじゃない? まだタツさん見つけてないよ」

そうじゃねえッ!!

からからと笑うシャオイェに全力でツッコミたい。だがツッコんでは聞き耳を立てているのがバレる。紅修は必死に自分を抑え、ぷるぷると肩を震わせた。幸いこちらに視線は来ていないし、向こうの空気にも変化はない。

「ふふ、それもそうね」

おめーもそこで諦めんのかよ!!

そこには色といったものはなく、ほんわか仲良し空間が広がっていた。これでいいのか?
紅修が知る男女はもっと活動的というか貪欲的で、そういう雰囲気になろうものなら食いつきにかかりどちらが主導権を握るかの闘争になるものだ。これが地域差というものなのか、それとも種族差なのか。
いや待て、シャオイェは自分よりも頭が回る。先程紅修の実力を褒めていたが、シャオイェもそれに負けず劣らずの有能さを持っている。ああ見えて女慣れしていても不思議ではない。意外とカミナが趣味ではなく、あえてこういう返しをして関係を回避をした可能性もある。

……そういえば、桃華をえらく気に入っているし、俺に嫁にするのか聞いてきたな。もしかして、"そっち"か?

たしかに人に知らせられるような趣味ではない。シャオイェなら、自分の趣味を紅修にわからないようにするなんてお手の物だろう。
そう考えて目の前の桃華に目を落とす。桃華はきょとんとした顔で首をかしげた。
……以前同じ旅団で依頼をした時、シャオイェと桃華の間で何かあったようなことは無かったと思うが、念のため今回は長陽城に残すのがいいのかもしれない。

留守番の桃華どうすっかな……あとで人力仲介に行って相談してみるか。

ようやく役員が奥から変化丸の包み紙らしきものを持って現れたのは、紅修がそう結論付けたくらいだった。


登場人物が増えてきたので、現在の人間関係図。
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シャオイェを主人公に据える気はなかったんだけど結果的にシャオイェのつながりが多くなってしまった……。

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