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崑崙世界:物語:カミナとの会合

参照:twitter企画崑崙世界

シャオイェが召喚者自覚する話からちょっと後の小説。
鷹見視点三人称。

登場人物

この世界に来てから記憶を取り戻した召喚者にお願いしたいことがある。

一風変わった依頼が人力仲介に来たのは数日前のことだった。
早々に侠士を倒れさせた鷹見は人力仲介内でも有名になっていて、その案件が届くやいなや、お前の管轄だろうとばかりに担当を任された。

速攻で名前覚えてもらえたのはやりやすくはあるけど、不名誉だよなぁ。ま、早い所挽回しますかっと。

依頼人は広霊鎮から来たという天人女性。濡羽色の長い髪をポニーテールの位置で輪を結って垂らし、意思の強そうなルビー色の瞳をしている。薄紫と赤を基調にした白い法衣を纏っているから、法職、なんとなく医者かもしれないと感じた。人力仲介にあまり慣れていないようで、少し緊張した面持ちでイジュニの話を聞いている。広霊鎮育ちにありがちな尊大な態度は見られないし、あまりこちらの感覚にはそぐわない名前なのでこの人も召喚者かもしれない。
カミナと名乗った女性は、小野の記憶を取り戻したきっかけが鷹見だということをイジュニから聞くと、依頼時に同席することを頼んできた。自己紹介をすると、小野との関係を聞かれた。小野の記憶が戻った様子を伝えつつ、小野の現状を知るべく紙束を引っ張り出す。どうやら今は他の依頼を受けていてすぐには会えないようだ。腕は悪くないはずだから、この内容なら問題なく予定の日までに帰ってくるだろう。
そうカミナに伝え、会える日時の段取りを始める。小野のことをどこから聞いたのか、小野に何の用なのか、気になる事はあったが、それは小野が居る時に聞けばいい。
無事に日取りが決まると、彼女は優雅に一礼して去っていった。育ちであそこまで所作が洗練されるものなのかと感心していると、仕事しろとばかりにイジュニに頭を小突かれた。流派に入っていない小野への連絡手段は手紙しかない。どちらにせよ長陽城に戻らなければ見ることはできないが、だからといって連絡を疎かにするのは仕事として頂けない。

適当に流派入ってくれたら連絡しやすくなって、ちょっと楽になるんだけどな。

***

小野は問題なく現行の依頼の報告を終え、当日になった。鷹見は小野が来た知らせを受けて窓口に向かうと、ちょうど人力仲介の表に位置する露店街の中からカミナの姿を認めた。このまま小野を先に交渉用の個室へ案内するより全員一緒に移動したほうが二度手間にならずにすむだろう。

「アキラちゃん、あの人」

鷹見が告げると、顔を知らない小野は振り向いてカミナの姿を探し始めた。黒髪の天人の、と特徴を告げていると、カミナもこちらに気づいた様子で、速度を上げて人力仲介に入ってきた。

ん? なんか雰囲気がおかしくないか?

カミナは慌てふためきながら、窓口に着くなり小野に勢いよく詰め寄ってきた。

「シャオアン!」
「へ」

対する小野は目を見開いた。何が起こっているのがよくわかっていない顔だ。カミナはそれに気づいているのか……いや、それどころではないといった様子で続けざま小野に畳み掛ける。

「あなた死んだんじゃ……生きてたの!? シャオアンでしょう!?」
「……えーと、誰かとお間違えすか?」
「……べ、別人? でもよく似てる……いややっぱりシャオアンじゃ……」

とぼけた声をだす小野に怯むカミナ。彼女はどうやら小野をシャオアンなる人物だと思っているようだ。

え? この人アキラちゃんの知り合いだった? でもシャオアンって誰だ、音だけ聞くとこっちの人ぽいけど。

よくわからないことになっているな思ったが、同時にデジャヴを覚える。鷹見は反射的に連想した懸念を口にしていた。

「もう倒れないでよアキラちゃん」
「もうって……そうポンポン倒れてたまるかっての」

カミナとの会合-挿絵

不満そうに横目で睨まれたが、ここまで前触れが一緒なら不安にもなるだろう。ここで再び倒れられたら処理に追われるのは鷹見であるし、責任を追求されるのもまた鷹見だ。窓口業務を金輪際差し止められる事態になるならまだいいほうで、立て続けに客を倒れさせれば次こそクビになるかもしれない。イジュニにこってり絞られるのはもう御免被りたい。釘を刺して当然だ、鷹見はそう結論付ける。
小野はそんなことを考えている鷹見をじとっと見ていたが、ため息を一つついたあと、カミナに顔を向け直した。

「で、"記憶が戻った召喚者"に依頼があるのはお嬢さんでいいんすか?」
「えっ、あ、あぁ……そうだったわね……」

***

未だに戸惑っているカミナをどうにか部屋に誘導した。カミナはまだ落ち着かない様子だったが、自分なりに落とし所をつけたのか、おずおずと話し始めた。

「えっと……シャオアンじゃないのよね? 自己紹介が要るわね……わたしは広霊鎮の召喚者よ。カミナと呼んで」
「カミナさんか。自分はシャオイェ 。召喚前は暁。呼びやすい方でかまわねっす」

二人が自分の名前を伝え合う。今回はあくまでカミナが小野へ依頼する交渉だ。小野が記憶を取り戻したきっかけの人間ということで同席をしているが、どこか抜けている小野が変な方向へ暴走しないようフォローをしつつ、話自体は二人が進めていくのが良いのだろう。やはりカミナは召喚者だったか、と鷹見は一人納得しながら二人の会話を静かに見守った。

「この世界は長いから、シャオイェと呼ばせてもらうわ……ええと」

カミナはそこで一度言葉を切り、困ったように笑顔を作って続けた。

「依頼主と請負人という間ではあるけど、取り繕ったしゃべりは控えてもらってもいいかしら? 知り合いに敬わった態度をとられてるようで、なんだか変な感じがするの」
「そっか、そうさせてもらうよ。カミナ」

ニッと効果音が聞こえそうな笑顔と共に諾す小野。
知り合いというのはさっき言っていたシャオアンという人物だろう。さっきの発言からすると、もう亡くなっていることが察せられる。

アキラちゃんももともと堅苦しいの苦手だから、渡りに船つったところだろうな。

小野の笑顔を見たカミナは柔らかい笑顔と礼を述べた。

「ありがとう。……わたしは黄帝剣派に所属しているんだけど、以前伏魔剣派からの使者が広霊鎮に来たことがあって」
「黄帝剣派と伏魔剣派!? ちょ、大御所もいいとこじゃ……」

いきなりのビックネームに面食らい、見守ると決めたことも忘れて話に割り込んでしまう。鷹見にとって黄帝剣派や伏魔剣派は、人力仲介に入る前から聞き及んでいるほどの大きな流派だ。人力仲介にとっても依頼を振るほうであって、個別で依頼に来ることはほとんどないだろう。またその二流派は拠点も遠いため、長陽城の人力仲介とやり取りすること自体があまりなく、またあったとしても今の鷹見がつくような案件ではない。どうしてそんな流派の人間がこんなところに……と考えていると、小野はやはり敬語で話したほうが、とどこかズレたところを気にしている。思わず笑いそうになったが、それで冷静を取り戻すことかできた。まずはカミナの話を聞くことが先。おそらくこれらの疑問はこれからカミナの口から説明があるのだろう。

「わたし自身は大層な立場じゃないから、気楽にして頂戴。続けていいかしら?」
「っと、失礼。どうぞ」
「その使者の一人に、前の世界でよく見た顔があって。思わず声をかけたんだけど、向こうはこっちを全く知らない態度でね」
「さっき自分を見た時みたいな? よく似た別人じゃ?」
「あなたを見て驚きはしたけど、それとはまた違うのよ!」

慌てた様子でガタッと腰を浮かすカミナ。すぐにはっとし、取り乱したのを取り繕うようにコホンと一つ咳払いしたあと、座り直した。

「……あの子も恐らくこの世界に召喚されて来たんだって確信したの。証拠はないんだけど……前の世界で一番長くあの子と居たのはわたしだから、間違えるわけがない。記憶を失う召喚者はめずらしくないから、きっとあの子もそうなんだって」
「それで、その人の記憶を取り戻したいから、その成功例である自分に話を聞きに来たと」

頭自体は悪くない小野がカミナの言葉を代わりに続け、カミナは頷いて肯定を表す。しかし、証拠がないのに確信とは……。鷹見は特徴的なホクロを見た後でも別人かと思いかけたくらいだし、カミナも先程小野とシャオアンはやはり別人だという結論を出し、人違いをしたことを認めたというのにそこまで自信が持てるものなのだろうか。
それにしても、記憶を取り戻すことが依頼になる流れのようだが。

「その人の前の名前呼んだりはしたん?」
「もちろん」

小野の記憶を戻した時と同じ方法は既にやっているらしい。そもそも小野が記憶を取り戻したこと自体が前例のないことだ。現状その方法しか明らかになっていないのだから、それが駄目だとなると記憶を戻す方法が検討もつかなくなる。

「アキラちゃんの時はそれだけで記憶が戻ったけど、同じ事してもダメだったってことは、やっぱりよく似ている別人じゃないスか? そうすっと達成不可能な依頼ってことになりそうスけど」

達成不可能な依頼を仲介する事は、侠士倒しの汚名返上とは相反するものだ。人力仲介で扱うことになるなら遠慮したい。鷹見が含んだ言葉は無事カミナに通じたようだ。

「……別人ではないことは確かだと思ってるのだけど……記憶を思い出せないという事態はたしかにありえるわね」

カミナはすっと目を伏せて、考え込む様子を見せた。依頼を扱えないと言うと逆上する依頼者も多いらしい。理解が早くて助かると考えた反面、はじめて人力仲介を使うにしては物分りが良い。あの黄帝剣派に所属しているわけだから、そういったことにも配慮できるのかもしれないなと鷹見は思い至る。
軽く唸ったのち、考えがまとまったのか顔を上げた。

「まずはあの子を探すところから頼もうかしら。伏魔剣派にいるというのは分かってるんだけど、名前すら知らないの」
「それなら問題なく仲介できるスね」
「……黄帝剣派にいるなら仲間に頼んだほうが融通もきくし信用できるんじゃ?」
「アキラちゃん、黄帝剣派と伏魔剣派の関係知ってる?」
「あ。そうか、仲悪いんだっけ」

すかさず指摘すると小野は納得の表情を見せた。カミナもふうと息を吐きながら頷く。

「そういうこと。公的な使者ならともかく、わたしみたいな私用の目的で黄帝剣派の看板引っさげて行くのは印象がよくないの」
「人力仲介から伏魔剣派に連絡するっていう方法もあるっちゃあるけど、黄帝剣派の名前を出さないなら連絡損だし、そうするとそもそも人力仲介(ウチ)を通す必要性もなくなる」

鷹見はあの流派の人間に会ったことがあるが、彼らより力を示すかよほどの利点を見せるかしないと動いてくれない奴らが多かった。相当の金を積まない限りは人力仲介程度の依頼でとりなしてくれはしないだろう。伏魔剣派以上の力量という意味で彼らを動かせるのは黄帝剣派くらいだろうが、先に言ったとおり関係は険悪だ。今後を考えない前提で、黄帝剣派の名前を冠して依頼を送れば動きはするだろうが、このような流派間の関係を考えれば最終手段だ。そういう意味で伏魔剣派を動かせる組織は事実上ないに等しい。カミナが伏魔剣派についてどの程度まで知っているかは知らないが、個人的な用事でそのようなおおごとにするつもりがないからこそ人力仲介に来たのだろう。

「流派の末端だけでどうにか処理するとしても、名前を教えてくれなかったほどだから、対応してくれるとは思わないのよね……。それに、記憶を取り戻したあなたが接触することで何かしらの変化があの子にあるかもしれないし」

後半はダメで元々、といった口ぶりだった。カミナがその人物に必死なことが伺える。だがデメリットがあるとはいえ、必死でも私用の目的で流派を利用しないときっぱり宣言したカミナ。その態度は、強引な所がある伏魔剣派とは対照的で、理性的といわれる黄帝剣派の姿勢を表しているように見えた。

「……単身ヴァルナに乗り込むことも考えたのよ。でも、わたしは医者で天人で、根っからの広霊鎮育ち。いくら召喚者だからって、一人でヴァルナに行くのは不安要素が大きい。加えて、長陽城で召喚者に詳しい人が居るのは知っていたから、まずそこから話を聞いてみようと思ったの。広霊鎮から長陽城へ行く経路ならそれなりに確立されてるから」
「それで自分のことを聞いたと」

長陽城で召喚者に詳しい人。”希望の扉”の流派長が思い浮かぶ。希望の扉は黄帝剣派との関係も悪くなく、共闘したことがあるという話も聞く。小野も同じ人物を想起しているのだろう、記憶を取り戻した小野を介抱したその人だ。

「ええ。……まさか、シャオアンと同じ顔をここで見るとは思わなかったけど」

カミナが懐かしそうに、それでいて少し寂しそうにふっと微笑んだ。敬語をやめてほしいと願い出る程度には、シャオアンとカミナは親しい間柄だったのだろう。しかも故人となっているわけだ。今日人力仲介に来た時、あれほどの狼狽したのも仕方のない事だったのかもしれない。

「……依頼とは関係なさそうで悪いんだけど、よければそのシャオアンさんってどんな人だったのか聞いてもいい?」

そのような顔を向けられて居心地が悪いのか、小野は頬を指で掻きながらおそるおそるといった調子で言った。カミナは本音が表情に出ていたことを恥じたのか、一瞬の照れを見せたあと、目をゆっくり伏せてしみじみと話し始めた。

「……あなたとそっくりなんだけど……そうね、よく見れば違うな、とは分かるわね」

一度深く息を吐き、小野をじっと観察するように見つめながら続けるカミナ。

「髪はもうちょっと白みがかっていたし、目も青緑色だった。幼い頃から知っているひとりで、剣を持っていたの。医療術を教えたこともある。結構無鉄砲な戦い方をする子だったわ」
「剣を扱うところも一緒だったのか」
「恐怖に任せて振るってる印象だったわね……何かと怯えがちな内気な子で、変わりたいって言っていたのよ」

小野の職業は剣客だ。そこまでは一緒だが、性格は小野とは似ても似つかない。なにかとアクティブな印象のある小野が内気におびえている様子を連想し、吹き出しかけた口を自分で塞ぐ。

「顔だけじゃなくてね。ひと目見てそっくりだと思ったの」
「うん?」
「え? あなた女性でしょ? 男の人が苦手だったせいか、シャオアンも男物をよく着ていたのよ」

カミナはキョトンとした顔で言い放つ。鷹見と同じ感想を小野も持ったのだろう、似てないと考えたところで似ていると言われた一瞬の混乱を突かれた形で不意打ちになったと見えた。小野はぐっと言いよどんで狼狽え、目線を彷徨わせる。寸刻の沈黙で、否定のタイミングを逃してしまったことが伺えた。諦めたようにがくりと肩を落とし、ちらりと鷹見を一瞥したあと、恨めしげにカミナを見あげた。

「……カミナ、そういうのはさぁ。黙っといてほしかったなぁ」
「え。イッセーさん、あなたシャオイェとは結構親しい友達だったんじゃ」

知らなかったのか、と言外に尋ねられる。たしかにカミナが最初にここへ来た時、小野の事を話す際に一緒に関係を伝えた記憶がある。
前は中性だか半陰陽だか、どっち付かずだと当人が主張していたから、こっちでもそういうものかと勝手に思っていたが、否定ができなかった今の態度を見る限り、どうやらこちらでの小野は女らしい。

どっちでもなければどっちでもないって言うもんな。アキラちゃんの性格なら。

さてどう答えたものかと逡巡していると、カミナはその沈黙を答えだと受け取ったらしい。慌てたように小野に謝罪を向けた。

「ええと、ごめんなさい」
「……以降他言しなきゃ大丈夫」

いっちゃんもね、と付け加えて不服そうな目線を向けてきたので、鷹見は笑って返した。この世界では男物と女物は比較的明確に区別されていて、見た目に違和感がないのなら来ている服の性別と考えるだろう。小野は男性としての身長は低めとはいえ無理のない範疇だ。しかしカミナはそれでも小野を女と断定した。

そういや、探し人のこともいやに決めつけていたな。カミナサンにはそういう力でもあるのか? 召喚者の力とか?

「それで、なんでシャオアンさんは亡くなったのかな」

小野はこれ以上自分の話はしたくないとばかりに話を変える。カミナはそれに抗うことなく答えた。

「わたしも直接的に見たわけではないのだけども、長陽に向かう途中の雲夢平原で、運悪く強い妖魔が出たらしいわ。そこで亡くなったと聞いてる。ただ……」
「ただ?」
「その時いた旅団はほうほうの体で広霊鎮に逃げもどって、報告を受けた討伐隊がすぐに退治に行ったんだけど、シャオアンの遺体は確認できなかったって」
「じゃあどこかで生きてる見込みも……」

たびたびあの顔をされてはなんとなくいたたまれなくて、鷹見は希望のある可能性を口にするが、カミナは複雑そうな表情を見せた。

「わたしもそうであってほしいな、とは思っているし、さっきシャオイェに会った時は『やっぱりそうだった』と思ったんだけど。当時の旅団員は、明らかな致命傷を受けたのを見ているからそれはないだろうって……。結局、妖魔に食われたんじゃないか、って結論になってるわ」

話の途中でカミナはちらりと小野の顔を見たが、対する小野はテーブルの上の一点を見つめていた。いや、心ここにあらずといったところか。右手で胸に触れ、考え込んでいるようにも見える。

「アキラちゃん?」
「んっ、あ、あぁ、悲しかっただろうね。言いづらい話だったろうに聞いちゃってごめん」

話の途中で視線を向けられていたのには気づいていない様子だ。当たり障りのない言葉を紡いだのは明らかだ。

ちょ、話振ったのアキラちゃんだろwwww聞いとけよwwww

鷹見の心中の笑いに気づいてるのかいないのか、気付いたところでどうもしないだろうが、小野は少し強引に話の筋を依頼に戻す。

「まぁ、これからの話をしよう。探すのはどんな人? 伏魔剣派の使者ってことしか聞いてないからさ。種族とか、容姿とか、前のでもいいから名前とか。人探しの基本だし」
「以前はいつもタツと呼んでいたわ。ええと、容姿……人族で法衣を着てたわね。髪の毛が白くなっちゃってた。目は青色」
「カミナといいタツといい、どことなく日本を思わせるような名前だなぁ」
「ニホンはシャオイェの世界かしら? アキラやイッセーもなんとなく耳慣れた音だから、近い世界なのかもしれないわね」

小野の感想には同意するが、鷹見は伏魔剣派としては珍しい種族と格好であることのほうが気になった。法衣は陰陽師や道士など、法術を主とする職が着ている防具だ。ひらひらと長いものが多く、盗賊や武術家など激しく動くような職業には適さないそうだ。

「人族で法衣?」
「うん? なんか変?」
「伏魔剣派はバリバリ物理系でほぼ構成されてる流派なんだよ。大半は修羅族だし」
「あぁ、それならたしかに珍しいか」

小野は伏魔剣派の名前は聞いたことがあったようだが、どのような流派なのかまでは知らない様子だ。

「ともかく向かうはヴァルナね。シャオイェが行ったことがあるなら心強いんだけど」
「流石にあっちに用事はなかったな。でもヴァルナ出身侠士の知り合いはいる。カミナがよければ同行依頼は可能だと思う」
「……お願いしようかしら。わたしは腐っても黄帝剣派に属してる。伏魔剣派の人間に会いに行くんだから、ヴァルナに通じている仲介者は居たほうが良いでしょうね」

同行予定の侠士について、容姿や職、見合った報酬額の予想などが話し合われる。その侠士のことについて小野はそれなりに深く知っていて、依頼を共にしたことのある相手だということがわかる。小野にそのような交友があったことが意外だ。いや、小野の人見知りをしない性格からして、友人がいること自体は不思議ではないのだが、こちらの世界での小野の話はあまり聞いた覚えがないことに気づく。2・3回酒の席をともにしているが、専ら小野が前の世界での記憶について鷹見へ聞いてくるのが主だ(そしてそのネタで小野をからかうのが常だ)。
少し深く思い出してみれば、こちらでの小野の話を振ったこともあるが、のらりくらりと言いくるめられて、話を戻されていた気がする。長陽城に居着いているという割には、長く居る鷹見とつい最近まで会ったことはないし、かといって最近召喚されたにしては鷹見ほどではないとはいえこの世界のことをよく知っているように思える。嘘をついているようには感じないがよくわからない。
鷹見の存在自体は思い出したようだが、細かいやりとりの記憶は随分と抜けがあるようだし(だからからかうネタが多くて楽しいのだが)、さっきも女だということを聞かれたくない風だった。そこまで思考が来た所で、ひとつの仮説が思い浮かぶ。

あれ、もしかしてオレってアキラちゃんの信用ない?

嫌われているわけではないだろう。人に対する態度ははっきりしている人間だ。信用がごっそりない、というわけではないとは予想できる。だが度重なるからかいで機嫌を損ねている可能性はおおいにありえた。
しかし自分は十数年、こちらの世界で独りでここまで耐えてやってきたわけで。そんなところに降ってわいた小野(おもちy)……旧友の態度を改める気なぞしなかった。それに、無遠慮に対応しているわけでもないからこれくらい許容範囲だろう。

……前の世界の情報料ってことで。あとからかった時に面白い反応するアキラちゃんが悪い。

「……っていうかんじだけど、どうなん? 請負人増えるけどこれも人力仲介(ココ)介したほうがいいわけ?」
「あー、口頭報告で大丈夫なのか……? 確認してみる」
「よろしくお願いしますね、イッセーさん」

二人の話はまとまったらしい。危うく聞き逃すところだった。うまくカバーできたことに安堵しつつ、ふと机を見ると、入った時に出した茶はいつのまにやら全てなくなっていた。意外と時間が経っていたらしい。
イジュニへの確認はつつがなく終わり、商談部屋へ報告に戻る頃には飯時になっていた。
二人は定食屋を探しに人力仲介を後にした。残った鷹見は、軽く後処理をすると言って二人を見送った。

黄帝剣派の流派員が依頼人とはいえ、今回はそれを表に出すことを求めていないので、報告書の内容自体はシンプルな人探しだ。依頼の案件が記憶についてを主軸にしていたら、あっちにこっちに確認と許可を通さなければいけなかっただろう。問題といったら同行予定の侠士が増えるか否かくらいだが、既にイジュニに確認を済ませてあるので心配ない。さらさらと筆を進ませる中、ふと鷹見は思いつく。

……タツサンとやらがホントにカミナサンの知り合いだったとしたら、同じ世界から召喚されることって、アキラちゃんとオレ以外にもあることになるな。
もしかして、もしかしたら、他にも……。

十数年以来になるかという懐かしい顔たちが一瞬のうちにぶわっと駆ける。
記憶が完全に残っていて手先が器用な鷹見は、それを利用して自由になる金を結構な額持つことができていた。今まではもとの世界に帰るすべを探すために金を使っていたが、今日の今まで手がかりらしい情報は何一つ届いていない。小野は元々何かと特殊な人間だったのでなんとなく特例のような気でいたが、もしカミナという例も増えるなら、帰る方法よりも以前の友人に会える可能性のほうが俄然現実味があることになる。その仮説は、十数年間独りでこの世界を生き抜いてきた鷹見にとっては甘美以外の何者でもなかった。幸い今の鷹見は、希望の扉流派長という召喚者に何よりも深い相手とつながっている。胸から熱いものがこみ上げて来るのが分かる。
そうと分かればこうしてはいられない。焦る気持ちを抑えつつ、書類の残りを埋めていく。途中で思案にふけったせいだろう、終わる頃には予想よりも時間が経っていた。今から食べて帰ってきたら、ちょうど休憩時間が終わる頃合いだ。

手近の飯屋にでもいくか。いや、今日は露店で食べ歩きってのもありかも。

いい酒の肴が見つかれば、小野や、これから会えるかもしれない顔と呑むために覚えておこう。鷹見はそんな期待を膨らませて、腹を満たす先を探しはじめた。


影さんのキャラ投稿フラグを立てて終わり。
小野の診断メーカーを設定に入れ込もうと思ったら変なことになった。つか呼び名が多すぎや。
あと流派に色々設定が生えた。

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